平成20年ごろから、質屋を装った「偽装質屋」というものが登場。
その存在は全国的に確認されており、摘発や家宅捜索の対象となっています。その「偽装質屋」とは何でしょうか?
また、何が問題なのでしょうか?
「質」は形だけ
一般的に「質屋」は、お客様が持参したお品物を預かって「その品物に見合った額」をご融資します。
金相場や中古相場、業者価格などから考えて「品物ごとの値段」を決定しているのです。
そのため現在の相場では数千円の価値になっている時計に、10万円をお貸しするといった「いわゆる信用貸し」のようなことはできません。
もしもそれで10万円のご融資をしてしまった場合、仮にお客様が悪い方なら「本当は数千円だから、10万円を借りたまま質流れにしてしまえ。9万円以上の得をする」ということができてしまいます。
そのため、もしも質流れになってしまった場合、質屋側の負債にならないよう限度額を決定しているのです。
ところが、偽装質屋は「どんなも
のにでも」高額融資をします。
数千円の時計でも、100円ショップで買ってきたポーチでも、販売できない状態の古いバッグでも、拾った何かでも。
手近な物や二次販売できないものにまで、数万円や数十万円の貸し付けをしてしまうのです。
しかし質屋が信用できる相手に特別にするような「いわゆる信用貸し」ともまた違います。
あり得ないほどの高金利
問題となるのは、その金利額。
質屋は管理コストなどもあるため、特別に法律で最大9.5%の質料を設けることが許されています。年利としては「最大109.5%」ですが、前述の「なるべく流れないように値段設定をする」こともあり、周囲との競合も発生するので、そこまで高い質料設定のお店は少ない傾向です。
偽装質屋はそれ以上の設定。150~300%ほどの年利を付加している店舗も多く実在しているそうです。これは月の利息で考えると、何と25%相当!
たとえば質屋で10万円を借りた場合、月利息は法律上最大9,500円のところを、300%の偽装質屋では倍以上の25,000円相当が発生してしまうのです。
※利息の計算方法
借りた金額 × 年利(金利) ÷ 365(1年) × 借りている日数(1月) = 利息
↓
※10万円を年利300%で31日借りた場合
100,000円 × 300%(3.00と入力) ÷ 365 × 31 = 25,479円
しかしこの金利は、偽装質屋は10万円には設定しないでしょう。もっと低い元金のケースだと推測されます。
おおよそ偽装質屋は、年金生活者である高齢者を狙っています。高齢者の年金に目をつけ、長期的に搾取することが目的。そのため返せそうにない、無理が過ぎる利子はつけないのです。
年金収入は2か月に1回。となると1か月25,000円では5万円。払えなくなっては元も子もないので、150%程度に設定する。そうすれば利息は2か月で25,000円。元金と合わせて125,000円なら、2か月で15万円程度支給される年金から払える……と錯覚させてしまいます。
実は10万円の元金で考えればわかるように「この額なら、何とか返せそうだ」と思えてしまう部分が心理的なトリック。借りる方も貸す方も、基準は「年金収入」なのです。
年金手帳などを担保に預かる(違法行為)
しかし、質の仕組では「払えない場合、預けている物を手放して清算できる」はず。
明らかに利息が高く、リスクも高い契約なのに、それに頼る高齢者はなぜそれができないのでしょうか?
そもそも、なぜ足を運んでしまうのでしょうか?
実は、偽装質屋は法律で禁止されている「年金を担保にする」ことをおこなっているからです。
偽装質屋のターゲットは「年金生活者」。
高齢者は少ない年金だけでは足りないため、どこかでお金を借りたいと思っても、高齢で年金以外の収入がないため、どの消費者金融にも断られてしまいます。
しかし怪しげなチラシや看板で目にした「80歳までご融資可能」などの文字につられ、「○○ファイナンス」といった看板を掲げたビルの一室に足を運んでしまうのです。
(偽装質屋は免許を持っていないため「質」を名乗れません。また、何かあればすぐに退去できるビルの一室などに居を構えることが多いようです)
そこで待っているのは、次のひとこと。
「必要な額をお貸ししますから、質屋の形で何かを預かります。何でもいいです」
そこで価値の薄い腕時計や100円ショップで買ったものなどを持ち込み、その品物に見合わない額を貸し付けます。
2か月に1回の年金収入で返せる計算をして、10万円前後を借りていく。または冠婚葬祭などの急な出費として7~8万円を借りていく。これは前述のように、借りる側も貸す側も年金収入から計算します。
そこで必要なものが、以下の4つ。
(1)年金手帳
(2)通帳
(3)印鑑
(4)キャッシュカード
どれも人に渡してはいけないものばかりですが、この4つを偽装質屋は担保として預り、また口座引き落としの登録に使います。
くりかえしますが、労災年金を担保にお金を借りることは法律違反です(労災保険法第12条の5)。
しかし一時金が必要な高齢者は「もう散在する歳でもないし、すぐに返せるから……」と感覚が麻痺して、唯一の収入源を「担保」にしてしまうのです。
どうやって返済するの?
きちんとした質屋では品物を出す際、原則的に「本人が店頭で現金を支払う」ことで出せます。
預りの延長(再契約)だけの場合は、代理人や振り込みでも可能なことが多いです。
しかし偽装質屋は、途中で出すことも延長も、何も関係ありません。
なぜなら「年金支給日に、自動的に口座から『元金+利息分』の額が引き落とされる」からです。
これは初回に登録されてしまっているので、借りた本人にはどうにもできません。
そうなると、利用者は手もとに入るお金が少ないので、また偽装質屋にお金を借りてしまう。
しかし借金は自動的に返済されたので、心理的に借りやすくなっている――という錯覚に陥るように、偽装質屋は金額を設定しています。
そのため年金支給額の8~9割の計算になる融資額+利息に設定し、延々と利用されるように仕組まれています。何とか返せる額なのでループして利用してしまうようですが、本当は高額な利子分だけ、2か月の生活費が切迫され続けているだけなのです。
それを断ち切るには「引き落とされたら、そこで契約を終了させる」ことですが、これも難しいようです。
最初に預けた品物が価値の薄いものなので「返してもらうよりも、同じ額を借りた方がいい」という錯覚に陥る。そしてまた借りてしまう。そのたびに、払った利息だけが累積していく。
潤っているのは、偽装質屋だけ……。
このように、偽装詐欺の手口は巧妙な「錯覚の多重構造」になっています。
しかし年金生活者にとっては「生活できないわけでもない」ので、利用を続けてしまうのです。
本当は利用しなくても生活できていたり、ほかに頼れる場所や人があったはずなのに、間に合わせのお金を求めてしまったがために……。
何より「周知させること」が大切
こうしたことは、ネット検索すればすぐにわかる時代。
しかし問題なのは「年金生活者がインターネットを利用しない」ことです。
スマホ検索でも可能なのですが、スマートフォンを持っている年金生活者ほとんどが「電話、メールもしくは連絡用SNSアプリ、写真の撮影と閲覧」ぐらいしか使用していません。そもそもスマホで「調べもの」ができる感覚がないため、調べようという気さえ起きないのです。
そのため重要なのは、何より「教えてあげること」。
周囲が気づけば、利用する前に利用してはいけないと教える。利用していることがわかったら、ヤミ金だと教える。それでも利用を続けるなら、弁護士に相談。
全国に弁護士会の相談窓口があり、多重債務の相談は無料です。弁護士を利用すれば、交渉や支払い停止、過払い金の要求などができます。
偽装質屋は法定以上の金利に加えて保険証を預かるなど、立派な違法行為。警察への相談も躊躇せず、早めに検討すべきでしょう。摘発につながるかもしれません。