以前は金よりも確実に高価だった、プラチナ。
金よりはるかに希少性が高く、日本では「特別な(Platinum)」という意味の縁起をかついで婚約指輪や結婚指輪にプラチナを使用するのが定番化。カルティエが初めてプラチナをジュエリーに使用し、それからは宝飾品として金より高価で取引されていました。
ところがプラチナの相場は2015年の逆転現象(=プラチナより金のほうが高くなった現象)以来ずっと、金より格段に安いままです。
ここにはどんな原因があるのでしょうか?
そこには、昨今よく耳にするようになった「パラジウム」の影響が最も強いようです。パラジウムはプラチナと系統が似ており、銀色で加工しやすいため、他の貴金属の「割り金」として多く使用されます。金に混ぜることで銀色のホワイトゴールドになり、プラチナに混ぜることで色を変えずに強度を上げる。銀に混ぜることで銀歯にもなるため、過去には歯科用金属としての用途がほとんどの需要でした。 ところがそのパラジウムが、プラチナとそっくり入れ替わってしまったものがあります。それが自動車の「触媒」です。自動車用触媒は、排ガス中の有害物質を酸化・還元反応により無害な物質に変換する筒状のパーツ。ハニカム(蜂の巣)構造の中に貴金属を含んだ液体が塗り込まれており、その部分を通ることで排ガスが化学変化、有害物質の大部分が除去されます。そこに使われていたのが、以前はプラチナでした。ところが2000年台になって、それが当時は安価で、より除去効果が高いパラジウムに移行してきたのです。
まず2010年頃から、ヨーロッパでは触媒がパラジウムに移行していきました。ほぼ同じ時期に中国でもパラジウム消費が拡大し始め、2016年にはヨーロッパ以上の使用量となりました。 2015年になるとフォルクスワーゲン社の排ガス不正問題があり、プラチナの主な触媒需要だったディーゼル車が激減。それらの層がガソリン車に移行したものの、すでにパラジウムが触媒として一般化していました。 プラチナの宝飾需要は、世界的に見ると日本ほか一部の国のみ。そのためパラジウムの大部分は自動車用触媒に使用されており、特に中国は排ガス規制などの政策的な面から、もともとディーゼル車もパラジウムを使用していました。
結果としてパラジウム需要が急速に高まり、高騰化した金よりパラジウムのほうが高くなるという事態になりましたが、価格が跳ね上がってもプラチナより高い機能を誇り、需要は落ちません。こうした動きが重なって、プラチナはその地位をパラジウムに、価値を金に譲ってしまったようです。
一方で金は、世界が不安定になると値上がりするもの。
新型コロナウイルスの影響で全世界が不安状態に陥り、いつの時代でも価値がある金の獲得に走りました。そのため2020年には過去最高値を塗り替え、純金で7,000円、18金で5,000円を越えた状態が長い間続くという異常事態に。
先のプラチナのように、ここにも中国が関与しています。アメリカと中国が対立状態になり、同時に中国人が金を買い漁る。そうすると人口が多く経済への影響も強い中国の動きでもって、金相場が一気に変動してしまったのです。
そしてワクチンの完成や、その治験が高い確率で成功するなどポジティヴな要素があると、皮肉なことに金は値下がりを始めます。安心感から金を手放す人が増えるためです。またアメリカの対中路線が緩和されると、一気に下落するでしょう。
しかしこうした動きの中でも、プラチナは少し回復した程度でした。がぜん金より低いままで、プラチナのインゴットでさえグラム単価は18金より安いまま。前述したようにプラチナは世界情勢よりも市場で決まる側面が強いため、期待されたほど上がりませんでした。今後もプラチナが返り咲くことはないというのが、多くの貴金属に携わる人々の見解です。
プラチナ価格が再び金価格を上回る日は来るのでしょうか?
それは今後の、世界の動向次第でしょう。主な使用先だった自動車触媒以外の用途があれば、金やパラジウムに負けないはずです。
日本では金より上等なアクセサリーとして定着しているプラチナ。その色や質感からダイヤモンドの反射にも適しており、プラチナは金より上質のダイヤが使われている傾向です。金相場や市場に関係なく「特別(Platinum)」なものであり続けてほしいですね。