中古品でも、最初の購入当時には「新品の価格」がありますよね。商品やメーカー・ブランドによっては、いっさい値引きがない「定価」のままだったり、セール品だと値引き価格の表示が必ずあると思います。それが新品購入価格になりますが、売却する際、多くの方がそれを参考にされます。しかし残念ながら、その価格は基準にならないことが多いです。
そもそも定価と呼ばれるものの多くは「メーカーが定めた『この値段で売ってほしい』という希望小売価格」です。本来の「定価」という表記では、厳密には「必ずこの価格で販売しないといけない価格」という定義になるため、多くのメーカーが「希望小売価格」としての定価を定めています。しかし多くの商品は、そのままの価格では売ることが現実的ではありません。一部のハイブランドを除き、多くのメーカー品はそのままの価格では売れ残り、在庫品になってしまうのが現状です。
そこで多くの小売店では、各店舗や本部の判断により値下げをおこないます。
「30% OFF」といった割引や「1,000円引き」などの定額値引きをおこなうことで、消費者は見ただけでお得な感じがして購入欲が湧いてきます。デパートなどでも「セール」や「バーゲン」と銘打って、大々的に開催しますよね。最近の消費者の中には、必ず値下げがおこなわれる衣料品などは「セールにならないと買わない」という人も増えています。そういった現状のため、いわゆる定価はほとんど「あってないようなもの」になりつつあるのです。
それではここで、新品価格にまつわる「定価商品」「セール対象品」「オープン価格」「アウトレット商品」「当時の新品価格」の5項目について、買取の目線も加えて解説してみましょう。
(1).【定価商品】
基本的に値下げをしない商品。ルイ・ヴィトンなどのハイブランド、ロレックスなどの高級時計などが有名。これらの「新品」は、買取時に定価から掛け率で計算されることも多くあります。iPhoneなどアップル社製品も、原則的に値引きはおこないません。買取時には「未使用品の流通価格」が絡む判断になるので、定価からの掛け率だけで計算されることはあまりありません。
なお、買取にあたってルイ・ヴィトンは製造年、ロレックスはギャランティの日付、アップル社製品は現行モデルなどの基準で「新品かどうか」を判断します。そのため、しばらく使わずに保管していた「未使用品」と「新品」は似て非なるもの。たとえば5年前に購入したまま使っていないモデルを現在持ち込んでも「未使用品」としての判断となり、「新品」という判断はできません。そのため、新品であれば掛け率の計算が可能なものも、同じ掛け率で買取することができず、参考程度になってしまうことが多いです。
(2).【セール対象品】
一般の衣料品や家電など、多くがこれになります。発売当初はメーカー希望小売価格そのままや、なるべく近い高めの価格設定ですが、シーズン切り替えやモデルチェンジが常におこなわれるため、原価と利益を算出して値引価格を設定し、在庫が残らないように売っていく商品。「服は原価が定価の1~2割」と言われますが、その原価を回収できる線まで下げて売り払ってしまいます。あるいは原価を割る価格にまで値引き、とにかく売り切ろうとします。 他の在庫を置くことができないリスクを抱えたままでは、損益となっても古い在庫を外に出してしまわないと、新商品を展開できなくなってしまうからです。
買取時には、こちらの「いわゆる定価(=メーカー希望小売価格)」は、残念ながらあまり参考になりません。年数が経過したり、中古品に関しては一部を除き、ほとんどは「現在の中古流通額」から買取額を算出します。特に中古はモデルの新旧や状態、付属品ほか雑多な要素が1点ごとに異なるため、なるべく近いデータを拾って参照し、買取額を決めるものがほとんどです。未使用品でも中古流通に乗るため、買取額は中古流通相場から決定されます。未使用品でも、中古流通相場の多くは「セール品になって、底値になってからの価格が基準」になっているものが多いため、定価を参照するとがっかりしてしまうかもしれません。
中には新品の電動工具や、ブランドによっては新品価格から掛け率を算出できるものもあります。しかしルイ・ヴィトンやロレックスのような高い掛け率ではなくなることがほとんどです。また掛け率を設けているかどうかは店舗によりますので、気になるようでしたら定価からの計算なのか中古流通額からの判断なのか、問い合わせるのも手段のひとつかもしれません。
(3).【オープン価格】
最初からメーカー側が新品定価を定めないもので、年々増加の傾向にあります。パソコンなどの電化製品、安価な家電品、雑貨類などに多く、希望小売価格を設定しないことで小売店の間で競争し、販売相場を作ってもらう流れになります。それでもおおよその基準価格は相場として成立していくので、価格は商品によってまちまちですが、小売店で販売する金額のラインは早めに決まっていきます。
買取においては定価が存在しないため、掛け率での計算は不可能です。
一般に、買取価格は中古流通額や付き合いのある業者さんの価格からの計算になります。また、メーカーを通さないハンドメイド品なども定価が存在しないことが多いですね。その場合、最終的な販売価格には技術料や人件費が大きな部分を占めます。実質的に中古流通額が存在せず、相場を調べたり販売ルートを検討するのも難しいため、自信を持って買取できるものが限られます。
そのため販売できる確証がなく、厳しい査定になることがあります。
(4).【アウトレット商品】
要注意なのが、こちらの品目。近年流行し、すでに一般化しているアウトレット・モール。そこで販売されているモデルは最初から価格設定が安いものが多く、モールや店舗によってはさらに割引をおこなう前提の原価になっています。そのためブランド品でも、アウトレット価格は定価としての参考にはならないのです。たとえば定価が50,000円のバッグも、アウトレット扱いでは販売単価が半額に設定され、さらに入場時に20%引きチケットが配布され、そのうえアプリで追加5%引き……といった「多重割引」になっていきます。そうなると、実際の販売額は20,000円を切るほどに安くなってしまうのです。
新品がその価格で買えるということは、もちろん、中古流通市場は「最大販売額がそれ以下になる前提」での価格相場に設定されていきます。ということは、定価が50,000円であっても、実際の中古流通額は10,000円~15,000円程度になってしまう商品がほとんどになってしまうのです。買取額はその額を参考に算出されるので、店の利益を含んで算出され、それよりさらに下がります。このように、アウトレット商品である時点で、タグに表示されている定価はあくまで「参考価格」どまりになってしまうのです。
(5).【購入当時の新品価格】
買取時、よく「当時の購入価格は高かったのに……」というお言葉を頂戴することがあります。その「当時」は近年であれば今までの4項目で説明ができますが、10年前、20年前、30年前……となると、また勝手が違ってきます。
というのも、最も価格に影響が大きいのは「時代の流れ」。バブル時代は「どんなものでも、値段が高くないと売れない」という奇妙な状態でした。そのためグレードの高くないダイヤも現在の価値の数倍~数十倍の価格で販売され、それでも飛ぶように売れていました。価格には流行も関与するため、現在では身に着けている人をめったに見かけなくなったアイテムも高値で取引されていました。その代表格が「獣皮」。珍しい動物のレザーを使用した商品です。また物価も、現在とまったく違います。ドル計算すれば「1ドル=360円」の時代は、単純に言えば「1ドル=120円」の時代に比べて物価が3倍だったことになります。
これらのあおりを特に受けたのが、高額ダイヤモンドやデザインものの高額アクセサリー、クロコダイルやオーストリッチなどの獣皮。上記の理由で格段に価格が安くなってしまいます。当時のブランド品も、現在では買い手がつかない古いデザインになってしまうため、一部ハイブランドを除いて買取が難しくなっています。例え話になりますが、数十年前に購入した自動車や家を、現在売却したらどのぐらいの価値になるでしょうか?自動車は引き取ってくれれば御の字で、逆に処分料金が発生してしまうことが多いでしょう。家の場合は建物の評価はゼロで、現在の土地評価額から家屋取り壊し料金をマイナスした額が算出されることでしょう。ともに、現状での価格はつけられないケースが多いと思います。ブランド品や各種アイテムも、これと同じことが言えます。あくまで「現在の価格」を算出するので、購入当時の価格は参考にならないケースがほとんどです。
貴金属の場合は?
例外となるのが、金やプラチナといった貴金属。時代を経過したアクセサリーは、需要のあるブランド品であれば中古流通額からの計算になりますが、多くはデザイン上の問題で現在の販売が難しく、グラム計算になります。というのも、当時の購入額は販売店が設定した額であるため、あまり基準になりません。上記の物価やメーカーの問題もありますし、新品販売時の価格にはデザイン料、販売店の利益や経費なども加算されています。特にバブル時代は豪奢なデザインのものが飛ぶように売れたので、ほとんど「自由価格」だったと言えます。貴金属部分のグラム計算と金相場を掛け合わせ、もし色石やダイヤに価値がつけばそこへプラス。逆に石に価値がつかなければ重さからマイナス。純粋な計算で算出します。その計算に、当時の販売額はまったく関係ありません。
そのためデザイン料や諸経費がかかった当時の豪華で繊細なアクセサリーは、購入額をはるかに下回る額になることが多いです。当時は重宝された大きな色石も、現在では値段がつかずにグラム計算から引かれることが多いです。逆に、金が高くなかった時代に購入したシンプルで重量があるものは、金相場が高騰している現在では高値になることもあります。
時代とともに変わっていく、価値観。「新品」「定価」の価値観も、微妙に変わってきています。それに付随する買取価格も、常に変わっていきます。質屋は鎌倉時代からありましたが、「買取」は一般化してからほんの数十年。その頃のアイテムに「現代の価値」をつけること自体、かなり難しいことです。男性のカメラ・コレクターの中には「想い出として、当時の購入額を取っておく」という方もいます。レシートや領収証、商品タグなど、当時の購入額がわかるものをファイリングし、愛機の「記録」として保存しているという――お品物を大切に想うからこそできる、我が子の記録のような取り扱いです。新品価格も、そのようにキレイなものであると嬉しいですね。