お客様に、よく言われる言葉があります。
「これ、いくらになるか鑑定してよ」
ちょっと待って! 質屋(買取屋)は、基本的に「査定」のみで、「鑑定」はしていません。それはどういうことでしょうか?
まずは、買取店が日常的におこなっている「査定」。
こちらはひとことで言えば、「お品物に買取の価格を設定する」ことです。
そのうえでブランド品などは真贋を見ます。その真贋の基準は企業やお店によるものであるため、真正品だと認められても「そのお店の基準で」本物だという言い方になります。査定における最終結果は「買取額がいくらなのか」です。
ひるがえって「鑑定」とは、その「真贋・評価」のみをおこなう行為。
美術品や骨董など、本当に作者の手によるものなのかどうかを見ることが「鑑定」です。ほかにも古銭の希少なものの真贋、有名人のサイン色紙の真贋判定も鑑定に含まれます。
買取で身近なものでは、宝石類。それが天然ものか否か、どのようなグレードなのか、そうしたものがしっかり書かれているものが「鑑定書」です。
美術品なども鑑定機関によっては証明書を発行してくれます。
鑑定における最終結果は「本物かどうか」「グレードはどうなのか」です。
(不動産業界ではどちらの言葉も使用されますが、意味合いも変わってきます)
最初に戻ると「いくらになるか鑑定してよ」というのは、実際には「査定」ということがわかります。それでも「鑑定」という言葉をおっしゃるお客様は非常に多いです。なぜそうなったのでしょうか?
これには、有名テレビ番組が関与しています。
その番組では、テレビ局クルーと専門家が各地に訪れ、観客が埋蔵品を持ち寄り、収録をおこないます。そこで真贋と同時に価格的価値を調べ、発表されるのが「鑑定結果」。人気番組ですから視聴者も多く、かなりの人口に「鑑定 = 本物かどうかを見て、価格もつける」というイメージが浸透してしまったのです。
買取店は査定して買取額を決めますが、「鑑定」する力はありません。ブランド品も、あくまで「店の基準で真贋を見る」だけで、お墨付きや鑑定書などは発行できません。その逆で、鑑定機関は専門的知識で真贋を見るのみで、価格を設定することができません。またそれが専門なので、多額の鑑定料が必要となります。鑑定は買取査定のように気軽におこなえるものではないため「もし売る前提だったら、鑑定料のほうが高くなると思うから、やめておいたほうがいいよ」と言われることも、しばしばあると聞きます。
そもそも「買取額」と「販売額」もまた違いますから、鑑定結果として発表される金額はさらに混乱を招きます。しかし見ている視聴者には「あの掛け軸は、10万円で売れるんだ」と刷り込まれます。もしも買取店や骨董店に持っていくと、とてもその額に届かない金額の「査定結果」が出ることも多いでしょう。
この「査定と鑑定」のしっかりした線引きは、それぞれに携わっている人間にとっては、気安く口にできないものです。それほど定義づけがはっきりしているものですし、お互いの領域のように存在します。よって買取店には「鑑定士」はいませんし、鑑定機関には「査定士」がいないケースがほとんどです。買取店の中にはスタッフを「鑑定士」と呼んでいる店舗もありますが、おそらく通じやすさとイメージ戦略によるものかもしれません。美術品買取で言えば「鑑定料無料」というコピーは信用度が疑問視されます。
品物の価値は、値段だけではありません。
もちろん、本物かどうかもありますし、想い出や伝統などの価格にできない価値も付随します。「鑑定」してほしいぐらいの品物は、きっと「宝物」に違いありません。その大切にする「想い」こそが、その人にとっての「真の価値」なのかもしれませんね。